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役員借入金の相続税上の取扱いと5つの相続対策について

 中小企業において、顧問税理士の先生がついていたにもかかわらず、相続対策のアドバイスがなされず、遺族が多額の相続税を支払ったという話を聞きましたので、気をつけなければならない点や対策について説明させていただきます。顧客から相続対策をお願いされていなくても決算書を見れば多額の役員借入金があるのは分かるはずで、経営者が高齢であれば、なおさらのことだと思います。弁護士や司法書士と違い、経営者に接する機会や時間が多い士業である税理士が、そして税の専門家である税理士がアドバイスをすべきであると私は考えています。

1.役員借入金について

 大企業や中堅企業では基本的に考えられませんが、会社の業績が悪く、従業員給料や買掛金の支払いができなかったりする場合に、社長(役員)が会社にお金を貸すことがあります。このように社長が会社に貸しているお金のことを役員借入金と言います。なお、貸しているお金を返すように請求できる権利を貸付金債権(社長から見たら債権です)と言います。

2.役員借入金の相続税上の取扱い

 会社にお金を貸している社長が亡くなった場合、その貸付金債権は相続財産として相続税が課税されます。例えば、父親が社長で会社に1億5千万円の貸付金があり、そのままお金を返してもらうことなく亡くなった場合、相続財産に1億5千万円の貸付金債権が含まれてしまいます。1億5千万円の貸付金債権を相続した人は相続税を支払わなければいけません。会社社長ですから不動産や現預金・上場株式などの相続財産が他にもたくさんあるでしょう。基礎控除、配偶者控除、小規模宅地の特例などを使い、何とか多額の相続税を払わなくてもよさそうだと思っていたら返済されるあてのない1億5千万円の貸付金がでてきて加算された場合を考えます。単純計算ですが、相続人2人の場合で75百万円に税率30%がかかり、そこから7百万円を控除しますので1人あたり約15百万円の相続税が加算されることになります。

貸付金債権の金額が少なければ大きな問題にはなりませんが、何年、何十年と会社経営をしていた場合、貸付金債権が積み重なり、貸付金債権の金額が億単位になることも少なくありません。破産や民事再生法の開始決定など貸付金債権の回収が著しく困難であれば、相続財産に含めなくてもよい場合もありますが、会社が債務超過の状態というだけでは回収可能性があると判断され、相続税の課税対象になってしまいます。回収が不可能であることを立証することは難しいため、生前に貸付金債権を整理することをお勧めします。

3.役員借入金の相続税対策

 役員借入金を生前に整理する方法を5つご紹介します。

 役員借入金の相続税対策

(1)会社に現預金をスリム化させ、処分できる上場株式や遊休不動産などがある場合は資金化し返済する

 現預金の底溜り分(運転資金として必要のない部分など)、付き合いの定期預金などがある場合は、社長へ借入金を返済する。資金化できる不良在庫などは早めに処分し換金する。付き合う必要のなくなった取引先持株会の株式や業績が良かった時に証券会社から勧められた上場株式、所有不動産で事業運営にあたって必要のない不動産や遊休不動産などを処分・資金化し社長へ借入金を返済する。

(2)役員報酬を減らして借入金を返済する

 債務超過の状態に陥っていたり、業績が悪く内部留保が薄い場合については、元々会社の利益があまり出ていないにもかかわらず、社長の報酬が高かったことによるものである場合が多いのです。つまり、役員報酬を減らし、その差額を役員借入金の返済に充てることで役員借入金を減らしていくことができます。この方法であれば現時点で支払っている役員報酬の減少分を役員借入金返済に回すことになりますので、今現在キャッシュアウトしている以上の資金を必要としません。逆に、今よりもキャッシュ・アウト・フローは抑えるべきです。

 なお、役員借入金の返済には所得税や住民税の課税を受けることはありませんので、社長個人の税金を低く抑えることができます。

(3)貸付金債権を贈与する

 貸付金債権を贈与することも有効です。ただし、貸付金債権を贈与する際に贈与税が課税されます。贈与税の非課税枠は年間110万円ですので、貸付金債権を年間110万円以下ずつ贈与すれば贈与税が課税されません。

 なお、毎年決まった金額を贈与すると定期贈与とみなされ、年間110万円以下の贈与であっても贈与税が課税される場合があります。また、相続発生から3年以内の贈与財産については、相続財産として加算されます。過去に支払われた贈与税は計算された相続税から控除されます。お孫さんへの贈与は亡くなる前日であっても、相続財産の対象外となりますので有利です。非上場株式の生前贈与と違い、定期的に株価算定したり、評価額で争うようなこともないので比較的簡単にできる対策だと思います。

(4)貸付金債権を放棄する

 会社が債務超過で役員借入金に実質的な価値がない場合は、貸付金債権を放棄しても良いと思います。貸付金債権を放棄するには、役員から会社に貸付金を免除する旨を書いた内容証明郵便を出します。

 ただし、貸付金債権を放棄すると、会社では債務免除益という収益が生じます。したがって、税務上の赤字である繰越欠損金の範囲内で債権放棄をおこなうと良いでしょう。

(5)デット・エクイティ・スワップを活用する

 デット・エクイティ・スワップとは、会社への貸付金債権を株式に交換することです。例えば、簡単に説明すると会社に3,000万円を貸している場合、その3,000万円の貸付金債権で3,000万円分の株式を取得するということです。借入金3,000万円が資本金3,000万円に振り替わることになります。債務超過の会社の場合には、貸付金債権が低く評価され、例えば資本金1,000万円、債務消滅益2,000万円などとなったりするので注意が必要です。デット・エクイティ・スワップでは、貸付金債権が株式に代わることで役員借入金が減るだけでなく、事業承継税制が適用される可能性があります。なお、事業承継税制は平成30年度の税制改正で最大100%の納税猶予を受けられるようになっています。

4.法人の相続税対策

 役員借入金の相続税対策の方法についてご説明いたしましたが、実行する際には必ず税理士に相談しましょう。債権の繰越欠損金の金額や株主間の贈与税課税の問題など、考慮しなければならないことがたくさんあります。

 また、回収が著しく困難であるにもかかわらず貸付金債権を相続財産に計上し、既に相続税を申告してしまった方もいらっしゃると思います。亡くなってから5年10ヶ月以内であれば貸付金債権を相続財産から除き、申告金額を修正できる場合があります。既に支払っていた分との差額については税務署から返金されます。なお、払い過ぎた相続税を返金してもらうことを相続税還付といいます。

 非上場企業の株式評価にあたってですが、類似業種批准方式や純資産価額方式を使います。純資産を算定するにあたり、資産・負債を精査する必要があります。永年事業を継続していると回収不能の売掛金(本当に回収不能になっているものや誤って二重売上計上をしてしまい消し漏れているもの等)が計上されたままになっていたり、棚卸資産の帳簿価額が異常に大きくなっていたり(価値のない不良在庫がそのまま帳簿に残っていたり、帳簿には載っているが現物がなかったりなど)することは、中小企業においてはよくあることです。これらの資産や負債をきちんと精査することにより株式の評価額はかなり変わってくるので気をつけていただきたいところです。

 

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