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損益通算について 不動産の売却益と事業所得の損失は損益通算できません

いろいろなHPを読んでいると専門用語や紛らわしい表現などで勘違いしている方もいらっしゃると思いますので、説明をさせていただきます。

まずは、基本的な用語の説明ですが、赤字の所得を他の黒字になっている所得から差し引くことを「損益通算」といいます。たとえば、起業した直後に赤字が出てしまった場合には、給与所得からその赤字分差し引くことで、所得を抑えることができるので節税になります。今、所得から赤字分を差し引くと書きましたが、あくまでも「損益通算」は損失からの利益という順番であって、利益から損失を控除するという思考をすると、すなわち「どちらから足しても引いても同じでしょ」という思考回路ですと混同してしまいやすくなるように思います。逆のパターンの給与所得の損失は、事業所得から損益通算できません。そもそも給与所得が損失になること自体が想定されていません。

損益通算はすべての所得でできるわけではなく、損益通算できる所得は以下の所得に限られます。

損益通算できる所得は次の4つになります。
私は、富士登山(不事渡山:ふじとざん)と語呂合わせで覚えています。
①不動産所得の赤字
②事業所得の赤字
③譲渡所得の赤字
④山林所得の赤字

損益通算には順序があり、所得の性質の似通った種類の所得グループにおいてまず損益通算して、次にその他の種類の所得に損益通算していくという税法上のルールがあります。

① 不動産所得の金額または事業所得の金額の計算上生じた損失の金額は、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得(これらの所得は経常所得といいます)の金額から控除します。

② 譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額は、一時所得の金額から控除します。

③ 上記①で控除しきれないときは、譲渡所得の金額、次に一時所得の金額(②の控除後)から控除します。

④ ②で控除しきれないときは、これを経常所得の金額(①の控除後の金額)から控除します。

⑤ ③、④で控除しきれないときは、まず山林所得の金額から控除し、次に退職所得の金額から控除します。

⑥ 山林所得の金額の計算上生じた損失の金額は、経常所得(①または④の控除後)、次に譲渡所得、一時所得の金額(②または③の控除後)、さらに退職所得の金額(⑤の控除後)の順で控除を行います。

これだけ読むと、事業所得の赤字は不動産売却益つまり譲渡所得の黒字と損益通算できると思ってしまいます。ちなみに不動産の売却による所得は不動産所得ではありませんので混同なされないようにしてください。

所得は全部で10種類あり、各所得を合計して、全体の所得に税金がかかることを「総合課税」と言います。「総合課税」とは、譲渡所得額を他の所得(事業所得や給与所得など)の金額と合計し、所得税法に規定された累進税率によって税額を計算する方法です。譲渡所得の総合課税、申告書にも記載されていますが、総合譲渡と言われているものです。しかし、残念ながら土地や建物の不動産を売却した場合は、「申告分離課税」が適用されるため他の所得とは合算せず、単独で一定の税率により税金を計算します。よって、事業所得で生じた損失は、不動産売却における譲渡所得との損益通算はできません。また5年前に購入した4,000万円の自宅マンションが今年2,500万円でしか売却できず1,500万円の損失がでても、株式投資で獲得した600万円の所得と損益通算もできません。つまり、不動産売却においては、黒字になっても赤字になっても他の所得との損益通算を行うことができないのです。土地・建物の譲渡による「譲渡所得」「譲渡損」は、他の所得と損益通算できませんが、例外が3つあります。 

3つの例外は自宅関係と同一年度の売却損益と覚えておきましょう。

1.自宅の売却のみ(特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除)

2.自宅の買換え(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の繰越控除)

3.同一年度に2つ以上の土地や建物を売却したとき

この例外を利用するには、「譲渡損」が出ていることが前提となります。不動産を売却したことによる「譲渡所得(売却益)」は確定申告が必要ですが、上記の例外を利用する際も確定申告が必要です。

 ⇒ 国税庁HP 

先に述べた10種類の所得は下記の通りです。

所得の種類内容
利子所得預貯金や公社債の利子など
配当所得株式の配当金、証券投資信託の分配金など
不動産所得マンションや駐車場の賃貸料など
事業所得製造業や販売業の所得など
給与所得給料や賞与
退職所得退職金など
山林所得山林の伐採や譲渡による所得など
譲渡所得販売用以外の資産譲渡による所得など (販売用資産の譲渡は事業所得になります)
一時所得満期の保険金、馬券の払戻金など
雑所得上記のいずれにも該当しないもの

ここで、紛らわしい譲渡所得について説明しておきたいと思います。

譲渡所得の譲渡の対象となる資産についてですが、土地、借地権、建物、株式等、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)などがあります。

そもそも「譲渡」とは、有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為をいいますので、通常の売買のほか、交換、競売、公売、代物弁済、財産分与、収用、法人に対する現物出資なども含まれます。

ところで、生活用動産の譲渡による所得には所得税が課税されません。そもそも帳簿に記帳されませんし、事業用ではないから当たり前ですね。以前ブログに書いたように事業主貸として出て行った消費性個人用資金ですから。

ここでいう「生活用動産」とは、家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産です。生活に必要だと思われない、貴金属や宝石、書画、骨とうなどで、1個又は1組の価額が30万円を超えるものは非課税とはなりませんので注意してください。 

「資産の譲渡」による所得のうち、以下に記載したものは譲渡所得ではなく、事業所得または雑所得として課税されます。租税回避行為をさせませんよということですね。

使用可能期間が1年未満の減価償却資産

取得価額が10万円未満である減価償却資産(業務の性質上基本的に重要なものを除きます。)

取得価額が20万円未満である減価償却資産で、取得の時に「一括償却資産の必要経費算入」の規定の適用を受けたもの(業務の性質上基本的に重要なものを除きます。)

話が少し広がりましたが、このくらいは説明しておかないと、全体像が把握できず、部分的になり、誤った理解をしてしまうと思います。

では、最後に損益通算について整理しておきたいと思います。

下記の所得については、所得の性質上損益通算になじまないことから、損益通算することはできません。
【損益通算できない所得】
①配当所得、給与所得、一時所得、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額
②不動産所得の金額の赤字のうち、土地等を取得するために要した借入金の利子に対応する部分の金額

本来であれば総合譲渡は損益通算できるのですが、下記のものはその例外となります。

【総合課税の譲渡所得(本来損益通算できる)の例外】

①生活に通常必要ではない資産で、価格が30万円を超える資産(例:宝石・ヨット・絵画・ゴルフ会員権など)から生じた損失の金額

②生活用動産を譲渡したことによる損失(事業用ではない生活に使っている車など、元々非課税なもの)

【申告分離課税により損益通算できないもの】
①土地、建物の譲渡所得(3つの例外除く)

②株式等の譲渡所得(上場株式等に対する譲渡損失は特例あり)

③先物取引の雑所得の金額の計算上生じた損失の金額

最後に「総合課税」と「分離課税」のおさらいです。

「譲渡所得」は、その資産の種類によって、「分離課税」の対象になるものと「総合課税」の対象になるものがあります。例えば、土地・建物や株式などの譲渡は、「分離課税」として所得税が計算され、土地・建物や株式等以外の資産は「総合課税」として計算されます。

【総合課税】

利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・譲渡所得(土地建物等・株式等の譲渡所得以外)・一時所得・雑所得。

【分離課税】

譲渡所得(土地建物等)・譲渡所得(株式等)・山林所得・退職所得・先物取引による所得。

繰り返しますが、譲渡所得は総合課税・分離課税双方にありますので注意してください。

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