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医療機関における医療安全の取り組みである「報告制度」について

一般的に報告制度とは、与えられた任務に対してその状況を管理者に伝達するシステムのことをいう。命令が上から下へと伝達されるのに対して、報告は下から上へと伝達される。報告の役割は命令によって遂行されている任務がどのような状況となっているかを伝えることによって、管理者が適切に管理できるようにすることにある。組織を合理的に運営するために考案された管理方式であって、多くの場合は報告の経路と形式が定められ、各職務担当者には職務内容に応じた報告が義務づけられている。

医療機関における報告制度を説明するにあたっては、アクシデント、インシデント、医療過誤について整理しておく必要がある。インシデントとは、患者の診療やケアにおいて、本来あるべき姿から外れた行為や事態の発生を意味する。また、傷害の発生した事態や傷害をもたらす可能性があったと考えられる状況も含まれる。簡単に言うと、患者には実施されなかった、もしくは実施されたが結果的に影響がなかった事例のことであり、ヒヤリハットやニアミス(米国の表現)といわれている。アクシデントとは、疾病そのものではなく医療機関で発生した患者の有害な事象をいい、医療行為や管理上の過失の有無を問わない。合併症、医薬品による副作用、医療材料・医療機器による不具合を含むものである。一言でいうと、医療行為の中で患者に障害や損害が発生したもので過失の有無を問わないものである。医療過誤とは、患者に傷害が発生していること、医療行為に過失があること、患者の傷害との間に因果関係があることの3要件が揃った状態を意味している。

医療過誤の有無にかかわらず、インシデント・アクシデントの発生を迅速に報告することで、医療安全管理上の早期対応が可能となり、今後の再発防止対策や質の向上、安全の向上、安全文化の醸成、医療安全に関する職員への教育・研修、医療事故への対応などに役立てることができる。インシデント・アクシデントを経験した者、または発見した者はインシデントレポートシステムにより速やかに報告し、医療安全管理室や医療安全推進室などでは報告されたレポートをもとに再発防止や質の向上に向けて対策を検討することになる。

自主的な報告と強制的な報告の使い分けについては影響度分類レベルについて説明しなければならない。影響度分類レベル0とは、エラーや医薬品・医療用具の不具合が見られたが患者へは実施されなかったものであり、レベル1とは、患者への実害はなかった(何らかの影響を与えた可能性は否定できない)。レベル2は 、傷害の継続性は一過性であり、傷害の程度は軽度であり、処置や治療は行わなかった(患者観察の強化、バイタルサインの軽度変化、安全確認のための検査の必要性は生じた)ものである。レベル3aは、一過性で中程度であり、簡単な処置や治療を要した(消毒・湿布・皮膚の縫合、鎮痛剤の投与等)ものである。病院によって異なるが、一般的にはここまでのレベル0から3aまでをインシデントレポートの対象とし、自主的な報告制度として取り上げている。

レベル3bは、一過性で高度なものであり、濃厚な処置や治療を要した(バイタルサインの高度変化、人工呼吸器の装着、手術、入院日数の延長、外来患者の入院、骨折など)ものである。レベル4は永続的で軽度から中等度のものと同じく永続的で中等度から高度なものに分けられる。前者は、永続的な傷害や後遺症は残ったが、有意な機能障害や美容上の問題は伴わないものであり、後者は、永続的な傷害や後遺症が残り、有意な機能障害や美容上の問題を伴うものである。最後のレベル5は死亡である。これも同じく病院によって異なるが、一般的にはレベル3bから5までを診療経過等報告書または合併症報告書の対象としており、強制的な報告制度として、使い分ける必要があると考えらえる。つまり、レベル3b以上の重大な事例については自主的な報告では許されず、強制的に報告させるということであり、緊急性を要することから、直後の口頭での連絡も要求している。

自主的な報告の数を増やすには、ヒヤリハット・ニアミスをした報告者を叱責したり、謝罪を求めたり、罰したりしないようにすることである。病棟や部署ごとの報告件数を評価する仕組みを構築する。しかしながら、レベルの低い報告が増えても本末転倒であり、ニアミスを収集し、事例集・防止マニュアルなどを作成し勉強会を行うなど、同じようなミスは起こさせないような仕組みをつくることである。それをくぐり抜けてしまうようなミスが起こった時には新たな盲点が発見されたということであり、ミスではあるが、レベルの高い次元のものとして評価すべきケースもあるのではないかと考える。防止に役立つ質の高い報告を増やすには、報告しやすい環境をつくることであり、その継続が報告する文化へとつながっていく。懲戒処分に対しては現実に可能な限りの保護に努め、極秘性あるいは匿名化した報告体制の構築、容易に報告することができるようなシステムの導入、また報告を収集・分析する部門と懲戒処分や制裁を行う部門を分離することなどが必要であると考える。

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