個人事業主は、事業により得たお金で生活をしています。特にサラリーマンをしながら副業で確定申告を始めたばかりだと事業用と個人消費用の口座が混同しているケースが多いと思います。ちなみに金融機関では、預金口座開設時に消費性個人口座と事業性個人口座の区分登録をしています。個人事業主は事業用の口座から、定期的に一定金額をおろして、いわゆる「給与」のような感覚で、生活費に充てている人も多いと思いますが、いったん消費性口座に振り替えて管理しておくと事業主貸借勘定を使用した仕訳入力がやりやすくなり資金管理にも便利です。そもそも個人事業主が個人消費に充てるための取り分については「給与」という考え方をしません。「個人事業主が自分自身に給与を支給する」という行為そのものが、税法上は存在しないということなのです。当然のことながら、個人消費に充てる取り分を経費にすることはできません。
なお、個人事業主の取り分は、大まかには「事業収入 - 必要経費 = 事業所得」として計算します。つまり、諸々の必要経費を差し引いた後に残った金額が、事業主の取り分ということになります。家族や従業員へ支給する給与との違いを整理すると、以下のようになります。
① 自分への給与 | ② 家族への給与 | ③ 従業員の給与 |
経費にできない | 要件を満たせば経費にできる (青色事業専従者給与) 白色はできない | 経費にできる (給料賃金) |
個人事業主の取り分を、帳簿上で給与として経費計上することはできません。さきほど、消費性口座と事業性口座を分けて管理するようにと説明いたしました。
事業で得た収入を、自分の生活費として消費性口座に移動させたり、プライベートで個人として使ったりするときには、「事業主貸」という科目で仕訳を切ってください。これは経費の科目ではなく、資産勘定になります。個人的用途の支出であることを示す科目で、いわゆるその名の通り事業主貸付金勘定と考えればよいと思います。消費性個人口座から事業性個人口座へ資金移動したときには「事業主借」勘定で仕訳を切ってください。消費性口座預金から借りたというイメージです。
事業専従者とは、白色申告を行う納税者と生計をともにする配偶者や15歳以上(12月31日時点)の親族で、年間6ヶ月以上、納税者が営む事業に従事している人をいいます。納税者が事業専従者に給与を支払った場合、青色申告のように経費として計上はできませんが、かわりに「事業専従者控除」を受けられます。
まずは、所得税における前提を把握する必要があります。それは、「親族に対する賃金給与は原則として経費に計上できない」ものです。所得税の性質として「一人の人間が大きく儲ける」よりも、「何人かの人間が少しずつ儲ける」方が、全体では税金の負担が減ります。
つまり、この性質を悪用しようと考えた場合、親族に対して賃金給与を支払うことによって不当な節税を図ることができてしまいます。そのような租税回避行為を防止するため、親族に対する賃金給与は経費として認められていないのです。
しかし、実際に納税者の事業に従事している親族がいる場合、賃金等の経費性が一切認められないのであれば実態に即した課税が行われません。そこで、白色申告においては専従者控除、青色申告においては専従者給与という仕組みが用意されています。白色では控除、青色では給与という表現の違いに注意しておいてください。ここがポイントです。
なお、事業専従者控除をした場合には、控除対象配偶者や扶養親族にはなれません。
白色申告では定額控除しか認められておらず、親族へ支払った給与は経費になりません。白色申告で認められている専従者控除では、支払った賃金の額等には関係なく、一定金額での控除が認められています。控除額は以下の通りです。
次のイ又はロの金額のどちらか低い金額
イ)事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者一人につき50万円
ロ)この控除をする前の事業所得等の金額を専従者の数に1を足した数で割った金額
そして、事業専従者に該当するか否かは、以下のように判定します。
イ)白色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
ロ)その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
ハ)その年を通じて6月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事していること。
これらの情報について、確定申告書や収支内訳書に適用金額などを記載することによって専従者控除の規定が適用されます。
事業専従者給与制度は、年度末の収支決算の結果を見て、利用するかどうか判断することもできます。つまり、扶養控除を受けたほうがいいのか、事業専従者控除にしたほうがいいのか、この時点で決めることができる、ということです。
青色申告では、白色申告における専従者控除と異なり、親族に対して実際に支払った賃金の額について経費に参入できる規定があります。青色事業専従者給与は、事前に納税地の税務署に対して届出を出し、届出書には支払う親族の氏名や仕事の内容、給与の金額などについて記載する必要があります。そのように事前に届出をしておけば、実際に支払った金額が経費として計上できるのです。
ただし、無制限に経費参入ができるわけではありません。青色事業専従者は、以下の要件に該当する人でなければなりません。
イ)青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
ロ)その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
ハ)その年を通じて6月を超える期間(一定の場合には事業に従事することができる期間の2分の1を超える期間)、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
特に、専ら従事しているという部分は注意が必要です。つまり、他のどこかで仕事をしながら家業の手伝いをしている親族は該当しないのです。
そしてもう一つ、大きな注意点があります。それは設定金額の妥当性です。例えば、従事している事業の内容や仕事量に対して、あまりにも過大な賃金を支払っているような場合には、その経費性が否認されることがあります。また、納税者本人の所得と比較して、青色事業専従者の賃金額が相対的に高いような場合にも問題となります。
注意点はいくつかありますが、青色事業専従者給与は青色申告制度における大きなメリットの一つです。白色申告の専従者控除と比較すると、その節税効果には大きな差があります。そのかわりと言っては何ですが、複式簿記で記帳をし、貸借対照表を作成しなければなりません。しかし、将来的に個人事業から法人へ移行し、会社を大きくしていきたいというビジョンを描いている経営者であれば、複式簿記で記帳をするのは当然だという考えをもっていただかないといけませんし、資産負債管理の観点、適正な期間損益計算を行い、経営の実態を数字で把握しておくという観点などからも青色申告をおすすめ致します。