親が認知症であっても生前贈与できますかというご質問をいただきましたので説明させていただきます。
親(以下「贈与者」)から生前贈与を受ける場合、贈与者が認知症にかかっていると、贈与者に意思決定能力、すなわちこの場合ですと財産を処分する判断能力があるかないかということが問題となります。意思決定能力がないと判断されれば、生前贈与したとしても、その生前贈与行為は無効とされてしまいます。
では、認知症を発症したからといって直ちに、すべての認知症の方が「意思決定能力がない」と判断されてしまうのかというと実はそうではありません。認知症であっても、程度によっては、意思決定能力があると判断されることもあります。
しかし、認知症の方が、意思決定能力すなわち生前贈与をしても後で無効とならない財産処分能力を有しているかどうかを判断することは、一般の人はもちろん、司法書士や弁護士の先生方でさえ判断は難しいものです。公正証書にする場合であっても公証人がそれを判断することは困難です。贈与契約を公正証書にしていても無効になる可能性はあります。
そこで、贈与者が認知症である場合、医師に診察してもらい、意思決定能力があるかないかを判断してもらう必要があります。そして将来のトラブル防止のために、口頭ではなく贈与者が意思決定能力すなわち財産処分能力があるといった旨の診断書を作成してもらうべきです。この場合、診断書を取得してから速やかに生前贈与行為をすることが重要となってきます。診断書作成日から期間が空きすぎるとその間に認知症が進行し、意思決定能力がない状態になってしまうこともあるからです。
また、贈与契約作成時およびその前後の贈与者の状態を動画等で残しておくのも一つの方法です。意思決定能力があると思われる言動や行動などを動画という形で残しておくことができれば、強力な証拠となります。
一方、贈与者が認知症で意思決定能力がない場合、成年後見制度を利用して生前贈与行為をしようと検討される方がおられますが、成年後見制度を利用したとしても生前贈与をすることはできません。なぜならば、成年後見制度というのはそもそも被後見人の財産を保護、つまり減らさないようにするための制度であり、生前贈与というのは被後見人の財産を減らす行為になるからです。