病院全体のバランスと成長を図る方法について
病院全体のバランスをとりながら成長を図る方法は、①自院の持つことができる資源及び今後生み出していける資源と、成長のために各事業で必要とされている資源のバランスを図る方法と、②多角化を展開していく際の成長の方向性を定める方法の二つがある。今回は前者を取り上げ、ボストンコンサルティンググループが作成した事業ポートフォリオPPM(以下、PPM)について説明する。
PPMは、事業を複数有する企業においてはキャッシュフローの観点から考え、「資金を生み出す事業」と「資金を投資する事業」を区別し、バランスよく組み合わせる方法である。これは、資金を使う事業が多いと資金不足に陥る一方、再投資する事業が少ないと企業が成長しなくなることから、投資にも重きを置いている点が特徴である。
なお、PPMは、次のことを前提としていることに留意したい。いかなる市場も経時的に成長が鈍化し、成長性の高い事業は多くの資金を必要とするということ、また、マーケットシェアの高い企業の方が低い企業よりも高収益を上げ、資金を生み出すということである。
上記の前提を踏まえ、PPMは各事業を4象限に分類する。分類方法は相対市場シェアの高低と市場成長性の高低で2×2表にする。
両者ともに高のものは「花形製品」といわれ、成長期にある事業が位置づけられる。シェアが高く競争力があり、会計上の利益がでる。また、運転資金や成長のための投資を必要とし、キャッシュフローの観点では大幅な資金獲得は見込めない。将来資金を生み出す金のなる木になるまでシェア維持が重要である。
相対市場シェアは高いが、市場成長性が低いものは「金のなる木」といわれ、シェアが高く利益が出る上、成長のための投資が不要である。この事業ばかりであれば潤沢なキャッシュフローを得ることができる一方、企業全体の成長率は落ちていく。研究開発投資をして花形製品を生み出すか、新規事業(問題児)に投資してシェアを上げ、花形製品に生み出すことが重要となる。
相対市場シェアは低いが、市場成長性が高いものは「問題児」といわれ、市場が成長期にあるものの、自社のシェアが低い事業が位置づけられる。一般的に収益性は低いが、その理由は、シェアが低いためにコスト面で不利であり、ブランド力がなく販売価格も低いためである。成長期ゆえ運転資金や設備投資が必要になるため、キャッシュフローはマイナスになる。事業が問題児ばかりにならないよう、選択と集中投資が重要になる。
両方とも低いものは「負け犬」といわれ、収益性が上がらないので撤退が重要となる。シェアの奪取は、市場成長率が低い時期には望めない。
以上のように、市場成長性と相対市場のシェアを使って分析するもので、シンプルな手法ではある。しかし、製品のライフサイクルの長さや段階が市場によって異なることから、将来の市場成長性を適切に予測することは困難であるという課題をもつ。またシェアの高低や安定の判断も難しい。BCGはシェア格差が2倍以内であれば双方ともにシェアを奪取する力があるとしているが、病院といった特殊な業態等に当該理論が適応できるかは検証されていない。
したがって、当該PPMは分かりやすく分析しやすい手法ではあるが、背景として必要な情報を的確に分析することが求められ、また市場によっては高低の線引きが異なり得る点には留意が必要である。