動機付けとは、心理学的には生活体に行動を起こさせ、目標に向かわせる心理的な過程と定義されている。そして、当該過程は内的要因と外的要因の相互作用により成立するが、そこにはいくつかの理論がある。初期のものとしては、マズローの五段階欲求説やマグレガーのX理論とY理論、ハーズバーグの二要因論などがあり、現代は目標設定理論や期待理論などエビデンスのある多くの理論がある。今回は、現代の動機づけ理論のうち、公平理論を取り上げる。
公平理論は、自分のインプットとアウトプット比率を他者と比較する原理に基づいた理論である。ここでいうインプットとは、努力や経験、学歴や能力などで、アウトプットは給与水準や表彰などである。比較対象は、自分と他者はもちろん、自分と組織システムであったり、自分と過去の自分であったりもする。比較対象との比率が等しい状態が公平な状態で、そうでない不公平な状態であると緊張が生まれ、動機付けの原因となる。つまり、緊張が公平な状態に向かおうとすることが動機付けの根源であるということになる。
具体的に不公平だと感じた場合の職員の行動を考えてみる。公平な状態にするために、①自身のインプットをアウトプットに合わせて低める。②他者のインプットを増加させるか、アウトプットを低くさせるといった行動をとる。③インプットやアウトプットを歪める(半ばあきらめるということ)。④比較対象を変える。⑤離職する。(比較そのものを避ける)といった行動が動機づけられる。
従業員の動機づけは絶対報酬だけではなく、相対報酬によっても影響を受ける。給与の絶対額があまりにも低すぎるといった場合には、転職という行動をとることになるであろうが、給与の絶対額の多寡だけではなく、他社との比較によって(相対的な比較、相対報酬)によっても不公平感はもたらされる。
このようなことから、当該理論に基づいた実践方法を考えると、本人の肩書や経験年数等で給与を決めず、スキルや実績といったものに応じた給与を決めるという能力給が望ましい。当該能力給は、職員に対し広範囲のスキルを習得したいという意欲を駆り立て、他の人の仕事への理解が深まることから組織全体のコミュニケーションも円滑になる。また、野心があっても、昇進のチャンスがほとんどない人の欲求を充たせるというメリットがある。しかし、昇りつめた人は欲求不満に陥り、スキルは常にブラッシュアップしていかないとやがて時代遅れとなっていく。また、スキルをいかに上手く使いこなしたかについての評価が難しいといったデメリットもある。