ローマ浴場博物館の2階にあるウェスパシアヌス帝の石像です。あまり知られていませんが、ウェスパシアヌス帝は小便(尿)に税をかけたことで有名なローマ皇帝なのです。税理士でも知らない人は多いのではないでしょうか。
私たちはこの世に暮らす限り、税から逃れることはできません。政治を司る者たちは、長い歴史の中でひげを生やす権利から衣服を着る権利に至るまで、あらゆるものに課税してきました。その中には、「現代に存在しなくてよかった」と思うような税も多数あります。
ウェスパシアヌス帝は、実はあの悪名高き暴君ネロ帝の後の皇帝で、ネロ帝の時に破綻した財政再建と大火後のローマの再建という大きな課題を抱えていました。そのために莫大な財源が必要でしたので、彼は増税策としてさまざまな間接税を編み出し、緊縮財政を実施しました。特に有名なのは74年にそれまで無料だった公衆便所を有料にしたことです。あまりのケチさに市民からの嘲笑を受けましたが、それに対する反論の(金は臭わない)は金銭に貴賎がないことを示す有名な文句となりました。息子のティトゥスが反対した時に、最初に徴収した税の中から貨幣を取り出して「臭うか?」と訊ねたとも言われています。
なお、ウェスパシアヌス帝の設置した公衆便所は用を足した利用者から税金を徴収するのではなく、集めた尿を使った分に応じて税金をかけたものだったと言われています。どういうことかと言うと、当時、毛織物業者は公衆便所に溜まる尿を毛織物染色や洗濯に無料で活用していました。羊毛から油分を洗い流すために、人間の尿が使われていたのです。つまり、ただで集めた尿を、国家が有料で売るという行為が嘲笑を招いたわけなのです。
一方で、市民の“パンと見世物”の要求に応えることも、ムチに対するアメとして必要でしたので、75年には、ローマに剣闘士競技のための大競技場を建設を開始しました。これが有名な、本格的円形競技場のコロッセオですが、10年を超える大規模工事となったため、完成したのは次のティトウス帝の時で、残念ながらウェスパシアヌス帝は完成したコロッセウム(コロッセオ)を見ることができませんでした。
彼の伝統にとらわれることのない斬新な発想は、小便税(トイレ税)とでも訳すべき間接税に如実に表れています。このようなユニークな発想があったからこそ、ローマを再建させることができたのでしょうが、ケチでブサイクな皇帝らしくない皇帝と言われていたそうで、マイナーな皇帝に成り下がってしまっているので取り上げました。実は、暴君ネロの亡き後、1年で皇帝が3人も代わるという不安定になっていたローマにおいて、次々と名乗りを上げた皇帝を倒し、内乱を収めてローマを安定させ、その後約30年続くフラウィウス朝を開いた創始者なのです。