ダブルチェックとは、ミスを減らすために点検や確認を二回、または二者で行うことである。そもそも「ミス」というのは、英語のミステイクmistakeを略した言葉であり、間違い、落ち度、手違いの意味で使われる。ちなみに英語では間違いの意味でミスという言葉は使わないようである。人為的ミスのことを「ヒューマンエラー」といい、人為的過誤や失敗を意味している。一般的には意図しない結果を生じる人間の行為と定義している。少し脱線するが、疑問に感じたので記しておきたい。ミスとエラーはどう違うのだろうか。バスケットボールやサッカーはミスのほうをつかう、パスミス、シュートミス、一方、野球ではエラーをつかう、取り損ない、打ち損ない、失策であるが、なぜかバントを失敗した場合はバントミス、走塁については走塁ミスである。判断については判断ミスとはいうが、判断エラーとは言わない。人為的ミス=ヒューマンエラーと述べたが、この場合はほぼ同じような意味合いでミスとエラーを使っているようであり、ミスとエラーという言葉に違和感はない。ミスとは、スキルがあるので当然できなければならないことが不注意や不可抗力で起こる失敗であり、個人攻撃されているように感じるが、エラーは、人間のシステムの失敗によってもたらされるもので、個人に責任をなすりつけるというような印象を受けない。ミスよりエラーのほうが気持ち的に軽い印象を受けるのは私だけであろうか。エラーは個々人ではなく、漠然としてはいるが全体が悪いというような感じがする。仕事において、あなたのミスとは言うが、あなたのエラーとは言わない。そう考えると、先程の野球もバスケ・サッカーもチームプレーではあるが、バスケ・サッカーは一人でドリブル突破して点を取ることができるのに対し、野球は塁にランナーがいないと点をとることができない。要するにバスケ・サッカーよりも個々人の色が薄いのでエラーを使うのではないだろうか。バントや走塁にミスを使うのは、唯一その部分においては個人色が強くなるからではなかろうかと考える。
仕事でミスが発生すると、結局そのリカバリーに相当の時間を費やすことになったり、特に医療現場においてはそのミスが取り返しのつかないことになってしまうケースは十分考えられる。そのようなミスを減らすために、ダブルチェックを行う必要がある。例えば、ミスをする可能性が1/100のAさんとBさんがいて、Aさんの仕事をBさんがチェックすることで1/100×1/100=1/10,000といったようにミスの確率を減らすことが理論上では可能である。
ダブルチェックは、航空業界や医療現場などの生命に関わるミスが許されない職業で、事故防止の観点から積極的に導入されている。例えば、患者Aさんには薬Aを、患者Bさんには薬Bを注射しなければならない場合に、薬を取り違えれば全く効き目がないということになってしまう。このような場合、患者Aさんに薬Aを注射する前に、自分でも薬の銘柄を確認し、同僚などに同じように確認をお願いすることによりダブルチェックを行い、医療事故を未然に防ぐという効果が期待できる。
ダブルチェックの種類には、いくつかのパターンがあるが、別の人間がチェックするものを二人ダブルチェック、同じ人間がチェックするものを一人ダブルチェックという。まず、一つ目は時間差型ダブルチェックであり、これは時間を置いて別の人間または同じ人間がチェックするものである。次に一人または二人で連続して同じ方法で確認するという連続型ダブルチェックがある。三つ目は役割分担型ダブルチェックというものであり、これはチェックする場所を分けてチェックしていき、最終的な数値等を突合していくというダブルチェックの方法である。最後は、双方向型ダブルチェックで、一人双方向型、二人連続双方向型、二人同時双方向型に分けられる。一人双方向型は一人が一回目と二回目で確認する方向を逆にする(一回目は処方箋から薬剤、二回目は薬剤から処方箋など)。二人連続双方向型は一人が確認した後二人目が逆方向で確認していくものである(一人目は処方箋から薬剤、二人目は薬剤から処方箋など)。二人同時双方向型は、最初は一人目が処方箋を読み上げて二人目が薬剤、次に二人目が薬剤を読み上げて一人目が処方箋を確認する方法である。このようにダブルチェックには様々な種類があり、作業に合わせてどのチェック方法を用いるかを明確にし、行動レベルの統一化を図ることが重要である。種類を決めたら、注意すべき項目を記載したチェックシートを作成し、活用しながら中身のアップデートをしていくことも必要である。
ダブルチェックの注意点としてよくあるのが、「例え自分がミスを見逃しても、次のチェック者が見つけてくれるだろう」という社会的手抜きや、「上司の仕事をコミュニケーションの取れていない部下がチェックする」という権威勾配の不適切、「あの先輩(あの仕事のできる人)が間違えるはずがない」と思い込むことによるダブルチェックの精度の低下などによりチェックに使った時間自体が無駄になり、そもそもの効果が得られないというような結果になってしまう。実効性のあるダブルチェックとするためにも、そもそもなぜチェックしているのか、何をチェックしているのか、チェックする2人は相互依存になっていないか、一つ一つのチェックは責任をもってなされているのか、十分な時間をかけているか、形骸化していないかなど改めて確認してみることが必要である。単純エラーを発見する目的でのダブルチェックはやめ、指差し呼称に切り替え、メモが必要な複雑な作業はダブルチェックにするなど使い分けることが必要であると考える。